コラム “志・継・夢・承”
事業承継やM&Aにまつわる思いを
気ままに綴っています

2021年

経営者にしか見えない景色Vol.39

本来であれば忘年会の季節です。会社としては自粛ムードが続くものの、個人では人それぞれで判断という雰囲気もあります。『まだ心配だからおとなしくしている』、『気をつけて地味にやる』、『リベンジ消費だ!』と、同じ環境下でも、人それぞれに見えている“景色”が違うがゆえ、その行動もいろいろです。

さて、2021年もあと少しですが、今年、経営をバトンタッチした、2人のカリスマ経営者がいます。

『役員体制を一新して後進に道を譲ることを決めた。』と、6月に、会長職から相談役に退いたのが、スズキの代表取締役会長、鈴木修氏(91歳)です。1978年に48歳で社長に就任以来“生涯現役”を掲げて40年以上、実質トップを務めてこられました。引退会見では『挑戦することは人生。』と語り、会見翌日も『気持ちは変わらない。戦う姿勢でいる。』と話されていました。

同じく6月、日本電産の創業者、永守重信会長兼CEO(77歳)が、CEO(最高経営責任者)の職を退きました。代表取締役会長として留任はするものの、1973年の創業以来48年間担ってきた、経営の最高責任者という立場からは離れます。株主総会後、『経営のバトンタッチは悩みではなく苦しみ。』と、大きな決断について語っています。

経営者には、“経営者にしか見えない景色”があります。カリスマ経営者であっても、事業承継の悩みは、中小企業のオーナー経営者と同じです。鈴木氏と永守氏のお二方の後継者選びも、振り返ると、永い歴史のなかで覚悟と決断を繰り返し、まさに試行錯誤や運命ともいえる過去があり、今に至っています。『事業承継は苦しみ』という言葉は本心であり、重く響いてきます。お二方にどのような景色が見えていたのか、その景色に何を想い、今年、こうして事業承継されたのかは、本人にしかわからないことです。

政治家は“選挙に落ちればただの人”といいますが、経営者は、社長という肩書がはずれても“ただの人”で終わるというものではありません。後進に道を譲り、経営者という肩書や立場はなくとも、自分自身の戦いや挑戦をやめることなく、戦い続ける意志や挑戦する心、社会に貢献する気持ちを持ち続けていれば、その言動には、経営者であることを超えて、人として、人の心に響き、生き方を指し示す重みがあります。

2021年、みなさんも何かと戦い続けた1年だったと思います。仕事、病気、社会、自分自身など、何と戦ってきたにせよ、コロナ禍という、皆が同じ苦しみにあるなかで戦いを続けてきたことで、一人ひとり、それぞれの階段を一段ずつ上がったはずです。2022年、まだ見えていない景色がそこにはあります。一段上がって、また違う景色を見ることができるのを楽しみにして、新年を迎えたいと思います。

以 上

<真>
2021年12月

帳尻をあわせるのは誰ですか?Vol.38

最近、“兆円”単位のお金の話をよく耳にします。

例えば、昨年度のコロナ対応での補正予算の歳出増加77兆円、東京オリンピックの総経費3兆円、政府予算の年度繰越額30兆円、税収が過去最高の60兆円、今秋の補正予算での経済対策は30兆円規模を想定など、10兆円単位になると、さらに想像の及ばない数字が並びます。

国内の銀行預金や貸出の金額もその1つです。東京商工リサーチの調査によると、2021年3月期の国内107銀行の貸出金は、コロナ禍の企業への資金繰り支援で573兆5,631億円(前年比3.3%増)に伸びたと同時に、銀行預金は、貸出金以上に伸びて922兆2,290億円(同10.0%増)となっています。銀行の預金残高に対する貸出残高の比率を示す預貸率は62.1%(同4.1%減)と2008年の調査開始以来最低水準で、預貸ギャップと言われる「預金と貸出金の差」は348兆6,658億円と前年から約66兆円も増えています。

この66兆円、ご想像の通り、コロナ対策の持続化給付金や助成金に加え、“とりあえずの借入金”がそのまま預金に積み上がったものといえます。確かに「無利子・無担保・無保証人・5年据置」の融資となれば、『預金にしておけばいつでも返せる』、『なんらリスクを感じない』、『とにかく非常時だから』など理由や理屈はさておき、経営者として“とりあえず借りる”というのは、理解できる行動ではあります。

とはいっても、他人から借りたお金、返さないといけないお金です。金融機関が、貸出先の借入返済能力にどの程度の余裕があるかを評価する指標として「DSCR(Debt Service Coverage Ratio)」があります。会社のキャッシュフローや収益が1年間の元利金返済額の何倍か?つまり、DSCRが1.0倍を下回ると年間の収支で借入返済が賄えていない状態であり、DSCRが高いほど、金融機関にとっては安全性が高い企業となります。

いずれ、金融機関からは、『DSCRをご存知ですか?1.0を切ると審査が通りません。』 『この借金は誰がどうやって返すのですか?』 『返済が始まる2025年には社長は何歳になっていますか?』 と、優しく諭されることになるかもしれません。そんなことを言われるくらいなら預金を取り崩して繰上げ返済すれば・・・。でも、「その後の経営は自己資金だけで大丈夫?」、「今の事業は今以上になってDSCR1.0を超える収益を生み出している?」、「社長の退職慰労金をすぐに払えるくらいの現金は残っている?」などと考え始めると不安は尽きません。

“Withコロナ”の事業承継は、すべての“帳尻があう”のかどうか、そして、帳尻を自分であわせるのか、誰かにあわせてもらうことになるのかまで、今、考えておく必要があります。

以 上

<真>
2021年11月

続・「東京2020」の教訓Vol.37

東京オリンピックに続き、パラリンピックも終わりました。

終わってみれば、まるで夢を見ていたかのようです。2013年9月7日に2020年の東京開催が決まってから丸8年、開催までの過程で、日本という国や組織、社会という枠組みにおける意思決定のあり方や、人としていかにあるべきかといった課題が次々と浮き彫りになりました。このままで日本の未来は大丈夫か?と、自戒も含め、この8年で得られた教訓は、日本人として真摯に受け止めて、前に進まなくてはなりません。

日本で57年ぶりに開催されたオリンピックは、今の子どもたちにどのような記憶として残ったのでしょうか。日本人ひとり一人の人生に刻まれた記憶であり、参加したアスリートの競技人生においては4年ごとに刻まれるマイルストーンでもあります。

東京五輪に参加した選手の最高齢は、馬術に出場した66歳のオーストラリア代表選手でした。年齢を問わない競技とはいえ、次のパリ五輪も目指すというのですから敬服します。日本人の最年長選手は、やはり馬術で49歳、一方、最年少はスケートボード女子の12歳、なんと中学1年生です。ちなみに、スケートボード女子では13歳の日本人史上最年少の金メダリストも誕生しました。また、男子板飛び込みの寺内選手は1996年に15歳でアトランタ五輪に初出場してから、今回、東京五輪には筋力や技術の向上はもう限界としながらも40歳で通算6度目の出場を果たし、決勝競技を終えると“飛び込み界のレジェンド”として、各国の選手や関係者からスタンディングオベーションで称えられました。

アスリートとして何歳まで戦えるか?アスリートにとって、東京五輪の開催が1年延期となったことや開催するかしないかもぎりぎりまでわからなかったなか、心身のピークを調整するのは容易ではなかったでしょうし、今回が最後のチャンスと考えていた選手は、もう1歳若ければと思ったかもしれません。東京五輪を最後にひっそりと引退する選手もいますが、アスリートは、若い時から常に“選手生命”=引退、という言葉と隣り合わせの人生です。

オーナー企業の経営者にも、経営者としての“選手生命”があります。ただ、経営者もアスリートも、引退を考える際の本音や心象風景は、本人にしかわかりません。かっこよく、『満たされた』、『やりきった』とも言えますが、正直に言えば『限界を感じた』、『燃え尽きた』でしょうし、本音は『疲れた』、『飽きた』かもしれません。こうした、紙一重で揺れ、重なり合う心情に正解はありません。でも、引退する際の本音は、かっこわるくてもいい、弱気でもいい、『燃え尽きた』や『疲れた』でいいと思います。人としての第2の人生、会社の第二の創業、社員の新しい挑戦といった、それぞれの“次”を前向きに実現できるなら、そして、どういう立場でも役割でも、自分らしく輝き続けることを目指していられるのであれば、最高の人生です。

8年にわたる永い夢とお祭りでした。多くの教訓を残して、「東京2020」の夏が終わります。

以 上

<真>
2021年9月

「東京2020」の教訓Vol.36

「東京オリンピック2020」が閉会しました。

世界206の国と地域から日本に集まったトップアスリートが繰り広げた33競技、339種目を時差もなく毎日観ることができるという、贅沢な17日間でした。アスリートが夢や目標に挑戦する懸命な姿は、政治や商業化とは無縁の純粋なもので、たくさんの人が勇気や希望をもらいました。ただ、残念だったのは“無観客”となったことで“人類がコロナに打ち勝った証し”という完全な形での開催とはならなかったことです。ここまで頑張ってきたアスリートの歓喜や悔し涙に声援や拍手を直接、会場で届けられなかったのは、なんとも口惜しく心残りではあります。

7月23日の開会式まで、開催地が東京に決定してからは2,876日、昨年3月24日に開催延期を発表してから486日、この間、世間は、都や国が『開催する』と言い続けていた言葉を必ずしも受け入れてはいませんでした。ただ、もし、『オリンピックは2021年に何が何でも絶対にやる。だから、迎え入れる日本としては希望する全成人が開会式までにワクチン接種を終える。』と、いつまでにどうあるべきかという目標と行動を明確に掲げていればどうなったでしょうか。たとえ非難の嵐にさらされても、覚悟をもって具体的な行動と結果を一つ一つ積み重ね、486日間、夢や目標に近づく過程を社会全体で共有できていれば、最終的に目標が100%達成できていなくとも、今とは違う風景を見ることができたかもしれません。

「東京2020」に至るまでの日々で、多くの人が、夢や目標を実現することの難しさと尊さを学びました。今こそ、ここで得られた教訓を活かさなくてはなりません。

中小企業のオーナー経営者の多くは、コロナを理由に、自身の事業承継や会社の成長戦略について、その答えを出すことを先送りしているように思います。しかし、オーナー経営者こそ、周囲からなんと言われようが、今、改めて、夢や目標を掲げ、実行に移す時です。そうして動き出すことで、夢への道を一緒に歩く人が増える、後から走って追いかけてくる人が出てくるかもしれません。先は見えなくても、逆風でも、伴走者はいなくても、今、始めるべきです。

今回、オリンピックに参加した、約1万2,000人のアスリートは、486日どころか、幼い頃から“オリンピックで金メダルをとる”という夢や目標を掲げ、目指してきました。そして、夢見る日から逆算したうえで毎日心身の鍛錬に明け暮れ、この夏、勝負の瞬間に挑み、既に、2024年、次のパリ五輪を見据えています。アスリートも経営者も“孤高を持する人”という点では共通している気がします。負けてはいられません。

以 上

<真>
2021年8月

“中小M&A”元年に思うことVol.35

新型コロナウイルスとオリンピックの話に埋もれて目立たないのですが、国の政策や提言において、 “中小企業のM&A”と“事業承継”が、かつてないほど取り上げられています。

例えば、4月に中小企業庁が発表した『中小M&A推進計画』、6月に政府が閣議決定した『骨太の方針』や『成長戦略実行計画』、内閣の「中堅企業等施策に関する関係府省会議」の『重点3本柱』です。いずれも、貴重な経営資源を将来に繋ぐことを目的として、個人事業主を含む中小企業・小規模事業者の事業承継・再生・事業再構築への支援や環境整備などについて、官民による具体的な施策を掲げています。

特に、『中小M&A推進計画』では、事業承継や成長志向、経営資源引継ぎといった、潜在的な譲渡ニーズをもつ中小・小規模事業者が約60万者あること、また、年間3,000~4,000件程度の中小M&Aが成立しているという数字が示されています。この数字から、毎年6~12万者の事業承継ニーズが顕在化しているとすれば、M&Aで解決できているのは3~6%程度と推測されます。ただ、M&A支援の輪が今後5年で広がってプレーヤーが増えたとしても今の数倍でしょうし、そもそも、60万者すべてがM&Aという手法で課題を解決できるわけではありません。また、M&Aも基本はビジネスであり、民間では採算が合う話でなければ誰も動きません。となると、誰かに託したいと思っても実現できる会社は10社に1社あればいい方かもしれません。では、あとの9割以上の“事業承継をしたくてもできない会社”はどうすればいいのでしょう?

M&Aは、“売った”“買った”で終わる話ではありません。もちろん、関係者みんなが幸せになる可能性がある方法ですが、経営や事業を託すこと、取引先や社員を託されることは簡単な話ではありません。中小M&Aが普及し、売り手でも買い手でも、実際にM&Aを経験した人が増えるほど、当事者となった方々は、それぞれの立場からM&A後の企業経営の難しさについて身をもって感じているはずです。

国が推進する中小M&Aに関する施策は、『あくまでも円滑なM&Aを後押しするもので、M&Aを強制して中小企業の淘汰を促すものではない』と強調しています。しかし、M&Aが普及すればするほど、M&Aという解決策のテーブルに乗らない会社が顕在化し、意図せずとも“自然淘汰”は進むでしょう。ゆえに、次は、『M&Aできない企業はどうすればいいのか?』、『M&A以外の方法はなにか?』という問いへの答えを考える必要があります。

今回、政策や提言の表題に“中小M&A”という言葉が明記されたことは画期的なことと受け止めています。将来、振り返ったら、M&Aのイメージを変えた、M&Aが中小企業に定着する転機となったのがあの時だったということになるかもしれません。中小M&Aが国の看板施策として掲げられるようになった今だからこそ、M&Aだけを考えるのではなく、M&Aを通して経営そのものを見直し、中小企業だからこその“M&Aではない解決策”も考え始める契機にしたいと考えます。

以 上

<真>
2021年7月

マスク越しの約束Vol.34

日々、世の中のいたるところで“約束”は交わされています。

国のトップが、『国民の命と健康を守り、安全・安心なオリンピックができるように全力を尽くす』と国民に約束することもあれば、上場企業の経営陣が、株主総会で、会社の業績や事業計画、配当方針といった経営目標を株主に約束することもあります。

みなさんも、最近、人との別れ際に、『コロナが落ち着いたら、また食事にでも。』と約束を交わした覚えはないでしょうか?ただ、この『コロナが落ち着いたら…』というのは、どういう状況?半年後、1年後、もっと先のつもり?社交辞令?と、お互いの思う前提や時間軸を確かめることもなく、エレベーターの扉は閉まります。こうして、日々、こうして世の中に積み上がっている“コロナ明けの飲み会”の約束が、いざ実行されようものなら、飲食店は、約束を果たす人たちで溢れかえる日々が数年は続くのではと思ったりもします。

また、事業承継に関して言えば、中小企業のオーナー経営者が、『いずれお前に社長を譲るから。』『俺は死ぬまで社長をやるぞ。』 『俺は60歳で引退する!』 と普段から公言している、あるいは、まさに事業承継のタイミングで、社員や家族に向けて、『みんなに悪いようにはしないから』 『あとのことは心配しなくていいから。』 と言い残すという約束もあるでしょう。もちろん、本人は、言った瞬間はそのつもりであるのは事実でしょうが、実際のところ、一方的な宣言であり、お互いに合意の上での「できる約束」か、「できない約束」なのかは微妙なところです。

事業承継ファンドがオーナーから資本と経営を引き継ぐ際、あるいは、M&Aの場面でも、約束は交わされます。この場合の約束は「株式譲渡契約書」で明文化します。例えば、譲渡価格はもちろん、対価の払込を実行するための前提条件、社員の雇用維持や処遇についての取り決め、あるいは、デューデリジェンスと呼ばれる財務や法務の精査で不備や瑕疵が見つかった場合や後々何か発覚した場合の補償や治癒の義務付けなどを明記して取り交わします。もちろん、契約上は「できない約束」はしないのが大前提です。

“約束”とは“互いの未来や行動を縛る行為”であるがゆえに、事業承継という場面での約束はなかなか難しいです。事業承継にあたり、去っていく経営者が社員と約束できることはありません。オーナー経営者は、これまで、たくさんの約束を実現してきたのですから、バトンを渡した後に残るのは“自分との約束”のみです。ゆえに、事業承継にあたり、会社のことで何か約束するのは、後を託された社員の方々や株主であり、託された人たちが約束をし、実行する番です。事業承継ファンドとしては、いつも、そういうつもりで“約束”をしています。

若い頃、『成功する経営者は、別れ際に今度食事でもと言ったら、帰ったらすぐに、日程調整の連絡がある。』と教えられました。マスク越しの“コロナ明けの飲み会”の約束、そろそろメモしておかないといけないかと真剣に悩みます。

以 上

<真>
2021年6月

何を再構築するかVol.33

4月、新しい季節の始まりとともに、社名を変更した企業があります。例えば、ソニーは「ソニーグループ」に、楽天は「楽天グループ」、富士ゼロックスは「富士フィルムビジネスイノベーション」、スシローグローバルホールディングスは「FOOD&LIFE COMPANIES」になりました。以前は、“名は体を表す”で、会社名で何をしている会社かわかる、あるいは、社長や創業者の名前がわかるものでしたが、時代を経て、理念をカタカナで社名とする会社が増え、さらに、上場企業の持ち株会社体制への移行に伴い、「○○ホールディングス」という社名もすっかり定着しました。今や、ソニーが「東京通信工業」だった、楽天が「エム・ディー・エム」だったと知る人も少ないでしょう。

最近は、事業領域を広げるため、社名に縛られずに新しいことに取り組めるようにと、社名変更するのが一つの流れのようです。企業規模に関係なく、中小企業でも、コロナショックを乗り越えて、現状から脱却することを考えるなら、思いきって、社名変更するのもありです。でも、いざとなると、『取引先にも定着しているし、費用もかかるし、今わざわざ変えなくても・・・。』と躊躇される方がほとんどです。ただ、未だにコロナ禍から抜け出せないなか、アフターコロナも見据えて、今、ゼロから再出発するくらいの覚悟でないと生き残っていけません。

コロナ禍にある中小企業が、将来を見据えて、新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換といった “事業再構築”に挑戦することを後押しするため、経済産業省は、1兆1,485億円という莫大な予算規模で補助金の交付を始めました。苦しいなかでも、前に進もうと考える中小企業や小規模企業にはありがたい支援です。4月15日より申請受付が開始、1回目の公募は4月30日が締め切りでしたが、今年度、あと4回ほど予定されている公募の度に応募する企業は増えていくでしょう。

補助金申請にあたって提出する「事業計画」には、事業内容や市場展望、収益計画、実施体制等を記載し、成果目標の達成が求められます。ただ、ここで、忘れてはいけないのは、事業再構築で“何をするのか”よりも、その事業を“誰がやるのか”が大切であるということです。いざ、事業計画や事業再構築を進めるとなった際のリーダーとして、社長の頭にあるのは、社長自身?それとも、次の経営者候補?でしょうか。

今回の事業再構築促進事業の原資はもちろん税金ですので、申請者には、ゼロから創業して100%成功させるというくらいの覚悟や本気度が求められます。ゆえに、『その事業を誰がやるのか?』が、最も重要なことです。そして、“誰が?”を考え始めると、“事業”の再構築だけではなく、“経営”の再構築も不可欠であることに気付き、さらには、“資本”の再構築にまで踏み込んで考えなければ、真の解決にはならない・・・という答えに行き着くはずです。

“事業”と“経営”と“資本”の再構築を一体で考えるのは、経営者にとっては、かなりの大仕事ですが、ここで全部まとめて考えて乗り越える!そういう時が来たといえます。

以 上

<真>
2021年5月

いつか来る道Vol.32

自らを“中小企業のおやじ”と公言して憚らない、売上3.5兆円の企業の経営者がいます。鈴木修氏、91歳、自動車メーカーのスズキの代表取締役会長です。

先日、『中期経営計画の着実な実行・推進をするために役員体制を一新して後進に道を譲ることを決めました。』と、6月の株主総会をもって会長職から相談役に退くと発表しました。1978年に48歳で社長に就任、2015年に社長職を譲った後も“生涯現役”を掲げ、徹底した現場主義とカリスマ経営で実に40年以上、実質トップを務めてこられました。今後は、長男の鈴木俊宏社長62歳が名実ともにトップとなり、外部招聘も含めた6人の専務役員が支えるという体制に移行します。

記者会見の席で、『なぜここまで続けられたのか?』という質問に対して、『生きがいは仕事。人間は仕事を放棄すると死んでしまう。挑戦することは人生。みなさんも仕事をし続けてください。』と答え、健康不安説に対しては、『昨年47回ゴルフをやってぴんぴんしている。』と切り返すなど、かつて“オサム節”や“勘ピューター”と言われた、軽妙な語り口ではないものの、91歳のカリスマ経営者から、一言一句、かみしめるように発せられる言葉には重みがありました。

この会見と同じ頃、JOC(日本オリンピック委員会)のトップ人事で混乱があり、後任を内々で決めようとしたことや83歳の会長が推挙した後任候補が84歳であったことが批判されました。ただ、この場合、間違ってはいけないのは、老いることや高齢であることが悪いわけではなく、密室政治や独裁、長老支配が問題であるということです。対照的に、鈴木会長の周囲は、地域においても、経済界や自動車業界においても、お年寄りだからということではない、尊敬と敬愛の情が溢れているように感じられます。だからこそ、91歳というトップの下でスズキは成り立ってきたのでしょう。

“事業承継”を円滑に進めるには、時間と周囲の理解、環境、しくみづくりが大切です。必要以上におもねてはいけないし、荒立ててもいけない。本人も周囲も一緒になって丁寧にバランスよく、事を進めていかなくてはならないと痛感します。

コロナ渦ですが、私自身、今年に入ってから10数名の中小企業のオーナー経営者の方とお会いしました。後継者問題を抱える40代から80代の経営者の方々で、事業承継の考え方も人それぞれですが、いざ踏み出すには、本人の気持ちだけで進められるものではなく、周囲の理解や助言、支援が不可欠であることは共通しています。

春、新入社員は若さと希望に満ち溢れています。桜を見ると、自分自身が新入社員だった、20代の頃の記憶は蘇ってきますが、80代を超えた自分は想像できません。ただ、価値判断の軸や幅が今とは変わっているでしょうし、見えている景色も違うであろうことは容易に想像ができます。

“いつか来た道”はわかりますが、“いつか来る道”はわかりません。でも、人それぞれ、その道をどう歩いていくかは自分で決めることができます。

以 上

<真>
2021年4月

おじさんだけの取締役Vol.31

みなさんの会社の取締役は、‟おじさん“だけだったりしますか?
というのも、先日、2月18日付の日本経済新聞に『多様性に関するお詫び~弊社の取締役が3人のおじさんだった件について~』という見出しで、サイボウズ株式会社が全面広告を掲載しました。サイボウズは、みなさんご存知の通り、社員のスケジュール管理や社内掲示板機能を提供する“Office”や
“kintone”といったグループウェアを開発している上場企業です。これまで、同社は、働き方改革や多様な個性の尊重を主張してきたにもかかわらず、自社が多様性のある職場を実現できていなかったのでお詫びということです。確かに、改めて見てみると、1971年生まれで49歳の青野社長、他の2人の取締役も49歳、53歳とまだ若いとはいえ、おじさん3人だけの経営陣でした。ということで、同社は、おじさんだけの取締役から脱却するべく、“みんなで取締役”をやってもいいのではと、次期取締役を社内公募したところ、昨年入社の新入社員、女性、海外在住の社員など17名が立候補したとのことです。

このウイットに富んだ、自虐的ともいえる広告の本来の趣旨は、必ずしも、お詫びではなく、会社の考えやありかたを共有するため、また、社会に対するメッセージとして、あわせて告知された、株主以外の人も参加できる『株主会議2021 -サイボウズと語る一日-』という場を広く知ってもらうことにあったようです。

このユニークな試みに好奇心を刺激され、私も、株主総会ではなく、『株主会議』なるものに参加してみました。『新しいカイシャを語る』『サイボウズのこれまでとこれからを語る』『みんなでサイボウズを語る』という3部構成、3時間半ほどの会議でしたが、私自身、経営者としても、“おじさん”としても、非常に示唆の多い時間であり、気持ちのいい会議でした。

そもそも、サイボウズは、社長のスケジュールやマネージャーの交際費、全社戦略の議論のプロセスも社内でオープンにするほど透明性の高い会社ですが、透明性を徹底すれば、社外取締役すら必要ないはずと考え、自由で柔軟な会社であり続ける、また、あり続けようとする姿勢に敬服します。一方、開示義務や規制、ガバナンスでがんじがらめに縛られた上場企業に比べたら、本来、もっと自由であるはずの中小オーナー企業は、その“自由”を謳歌できていない、有効に活用できていないといえます。

今回、オンラインで開催された『株主会議』は、サイボウズの約25.000人の株主からは約500人が参加し、株主以外の人が1,000人以上申し込んだそうで、むしろ、株主以外で『会社のありかたを共有し一緒に考えたい人が集う場』になったといえます。

これに倣い、中小企業こそ、株主に加え、親族や社員、さらには第三者でも会社のことを一緒に共有し考えたいという人が集まる場、事業承継も含め、会社のこれからを自由に語り、考える場が必要ではないでしょうか。中小オーナー企業こそ、もっと自由に考え、動くためにも、『株主会議』が必要だと考えます。

もし、『うちでもやってみたい』と思われた、オーナー経営者がいらっしゃれば、損得なしで、企画、提案、参加者として加わってみたいなと思います。一人で踏み切るのに躊躇される経営者がいらっしゃれば、ぜひ、お気軽にお声がけください。

以 上

<真>
2021年3月

神のみぞ知るVol.30

2021年、新しい年を迎えました。

2020年は誰にとっても想定外の1年でしたが、コロナとの戦いはまだ終わってはいません。特に、今年は、オリンピックは開催されるのか?ワクチンは有効なのか?いつコロナは収束するのか?といった不確定要因が多く、経営者の方は今までにないほど悩みながら、意思決定を重ねる年になるでしょう。

年末年始は、みな帰省もせず、初日の出はライブ配信、福袋はネットで予約購入など、いつもとは様変わりの風景となりました。とはいっても、オンラインでの初詣はどうなのかな・・・とは思うところです。

昨年、コロナの感染者数の動向に関して、『神のみぞ知る』という、政治家の発言が物議を醸しました、もちろん、無責任に口にされては困る言葉ですが、ただ、悩みに悩んで、やるべきことをやり尽くして、極限ともいえる領域に達して決断したなら、あとは『神のみぞ知る』と言いたくなる気持ちはわからないではありません。『人事を尽くして天命を待つ』とも言いますし・・・。

一つの重い判断を下すということでは、オーナー経営者にとっての“事業承継”という決断も同じです。息子に任せられるか?親族外の誰かに承継できるのか?M&Aより廃業したほうがいいのか?今やるべきなのか?など、決断に至るまでには迷いは尽きません。ただ、経営者として悩みに悩んだ末に行き着いた答えであれば、それが最善の決断であるはずです。

後を託された社員の皆さんも『社長が決めたことなら』と、その意志や想いをわかってくれるはずです。もちろん、想いのすべてをすぐに理解するのは難しいかもしれません。でも、その後、会社がより良くなっていくに従い、先代が選んだ答えの真の意味を理解し、不安や惑いといった想いのすべては感謝に変わっていくはずです。そして、その答えと理解にまでたどりつけるかどうかは、社員の皆さん自身の意識と努力次第でもあったりします。

事業承継にあたっての決断に絶対の正解はありません。もし、後々、後悔の念がよぎったとしても、決断した瞬間には正解であったはずです。その決断を正解とし続けるのは、オーナー経営者の責任や力量ではなく、もはや、受け継いだ人たちの責任と努力に因るものとなります。だから、何が正解か、誰にとっての正解か、いずれにせよ、事業承継の決断が“正解”だったのかどうかは、まさに“神のみぞ知る”ことなのです・・・というと、物議を醸すでしょうか?我々、事業承継ファンドの仕事は、その決断を“正解”にすることでもあります。

今年も、経営者には、いろいろな決断が迫られ、悲喜こもごも、さまざまなドラマが展開されるでしょう。今年はどんなドラマを描けるか。新しい出会いがあるか、楽しみです。どのような出会いがあるかは“神のみぞ知る”ですが、人と人との出会いが減った今こそ、人との出会いを大切にする1年にしたいです。

以 上

<真>
2021年1月