コラム “志・継・夢・承”
事業承継やM&Aにまつわる思いを
気ままに綴っています

2021年

何を再構築するかVol.33

4月、新しい季節の始まりとともに、社名を変更した企業があります。例えば、ソニーは「ソニーグループ」に、楽天は「楽天グループ」、富士ゼロックスは「富士フィルムビジネスイノベーション」、スシローグローバルホールディングスは「FOOD&LIFE COMPANIES」になりました。以前は、“名は体を表す”で、会社名で何をしている会社かわかる、あるいは、社長や創業者の名前がわかるものでしたが、時代を経て、理念をカタカナで社名とする会社が増え、さらに、上場企業の持ち株会社体制への移行に伴い、「○○ホールディングス」という社名もすっかり定着しました。今や、ソニーが「東京通信工業」だった、楽天が「エム・ディー・エム」だったと知る人も少ないでしょう。

最近は、事業領域を広げるため、社名に縛られずに新しいことに取り組めるようにと、社名変更するのが一つの流れのようです。企業規模に関係なく、中小企業でも、コロナショックを乗り越えて、現状から脱却することを考えるなら、思いきって、社名変更するのもありです。でも、いざとなると、『取引先にも定着しているし、費用もかかるし、今わざわざ変えなくても・・・。』と躊躇される方がほとんどです。ただ、未だにコロナ禍から抜け出せないなか、アフターコロナも見据えて、今、ゼロから再出発するくらいの覚悟でないと生き残っていけません。

コロナ禍にある中小企業が、将来を見据えて、新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換といった “事業再構築”に挑戦することを後押しするため、経済産業省は、1兆1,485億円という莫大な予算規模で補助金の交付を始めました。苦しいなかでも、前に進もうと考える中小企業や小規模企業にはありがたい支援です。4月15日より申請受付が開始、1回目の公募は4月30日が締め切りでしたが、今年度、あと4回ほど予定されている公募の度に応募する企業は増えていくでしょう。

補助金申請にあたって提出する「事業計画」には、事業内容や市場展望、収益計画、実施体制等を記載し、成果目標の達成が求められます。ただ、ここで、忘れてはいけないのは、事業再構築で“何をするのか”よりも、その事業を“誰がやるのか”が大切であるということです。いざ、事業計画や事業再構築を進めるとなった際のリーダーとして、社長の頭にあるのは、社長自身?それとも、次の経営者候補?でしょうか。

今回の事業再構築促進事業の原資はもちろん税金ですので、申請者には、ゼロから創業して100%成功させるというくらいの覚悟や本気度が求められます。ゆえに、『その事業を誰がやるのか?』が、最も重要なことです。そして、“誰が?”を考え始めると、“事業”の再構築だけではなく、“経営”の再構築も不可欠であることに気付き、さらには、“資本”の再構築にまで踏み込んで考えなければ、真の解決にはならない・・・という答えに行き着くはずです。

“事業”と“経営”と“資本”の再構築を一体で考えるのは、経営者にとっては、かなりの大仕事ですが、ここで全部まとめて考えて乗り越える!そういう時が来たといえます。

以 上

<真>
2021年5月

いつか来る道Vol.32

自らを“中小企業のおやじ”と公言して憚らない、売上3.5兆円の企業の経営者がいます。鈴木修氏、91歳、自動車メーカーのスズキの代表取締役会長です。

先日、『中期経営計画の着実な実行・推進をするために役員体制を一新して後進に道を譲ることを決めました。』と、6月の株主総会をもって会長職から相談役に退くと発表しました。1978年に48歳で社長に就任、2015年に社長職を譲った後も“生涯現役”を掲げ、徹底した現場主義とカリスマ経営で実に40年以上、実質トップを務めてこられました。今後は、長男の鈴木俊宏社長62歳が名実ともにトップとなり、外部招聘も含めた6人の専務役員が支えるという体制に移行します。

記者会見の席で、『なぜここまで続けられたのか?』という質問に対して、『生きがいは仕事。人間は仕事を放棄すると死んでしまう。挑戦することは人生。みなさんも仕事をし続けてください。』と答え、健康不安説に対しては、『昨年47回ゴルフをやってぴんぴんしている。』と切り返すなど、かつて“オサム節”や“勘ピューター”と言われた、軽妙な語り口ではないものの、91歳のカリスマ経営者から、一言一句、かみしめるように発せられる言葉には重みがありました。

この会見と同じ頃、JOC(日本オリンピック委員会)のトップ人事で混乱があり、後任を内々で決めようとしたことや83歳の会長が推挙した後任候補が84歳であったことが批判されました。ただ、この場合、間違ってはいけないのは、老いることや高齢であることが悪いわけではなく、密室政治や独裁、長老支配が問題であるということです。対照的に、鈴木会長の周囲は、地域においても、経済界や自動車業界においても、お年寄りだからということではない、尊敬と敬愛の情が溢れているように感じられます。だからこそ、91歳というトップの下でスズキは成り立ってきたのでしょう。

“事業承継”を円滑に進めるには、時間と周囲の理解、環境、しくみづくりが大切です。必要以上におもねてはいけないし、荒立ててもいけない。本人も周囲も一緒になって丁寧にバランスよく、事を進めていかなくてはならないと痛感します。

コロナ渦ですが、私自身、今年に入ってから10数名の中小企業のオーナー経営者の方とお会いしました。後継者問題を抱える40代から80代の経営者の方々で、事業承継の考え方も人それぞれですが、いざ踏み出すには、本人の気持ちだけで進められるものではなく、周囲の理解や助言、支援が不可欠であることは共通しています。

春、新入社員は若さと希望に満ち溢れています。桜を見ると、自分自身が新入社員だった、20代の頃の記憶は蘇ってきますが、80代を超えた自分は想像できません。ただ、価値判断の軸や幅が今とは変わっているでしょうし、見えている景色も違うであろうことは容易に想像ができます。

“いつか来た道”はわかりますが、“いつか来る道”はわかりません。でも、人それぞれ、その道をどう歩いていくかは自分で決めることができます。

以 上

<真>
2021年4月

おじさんだけの取締役Vol.31

みなさんの会社の取締役は、‟おじさん“だけだったりしますか?
というのも、先日、2月18日付の日本経済新聞に『多様性に関するお詫び~弊社の取締役が3人のおじさんだった件について~』という見出しで、サイボウズ株式会社が全面広告を掲載しました。サイボウズは、みなさんご存知の通り、社員のスケジュール管理や社内掲示板機能を提供する“Office”や
“kintone”といったグループウェアを開発している上場企業です。これまで、同社は、働き方改革や多様な個性の尊重を主張してきたにもかかわらず、自社が多様性のある職場を実現できていなかったのでお詫びということです。確かに、改めて見てみると、1971年生まれで49歳の青野社長、他の2人の取締役も49歳、53歳とまだ若いとはいえ、おじさん3人だけの経営陣でした。ということで、同社は、おじさんだけの取締役から脱却するべく、“みんなで取締役”をやってもいいのではと、次期取締役を社内公募したところ、昨年入社の新入社員、女性、海外在住の社員など17名が立候補したとのことです。

このウイットに富んだ、自虐的ともいえる広告の本来の趣旨は、必ずしも、お詫びではなく、会社の考えやありかたを共有するため、また、社会に対するメッセージとして、あわせて告知された、株主以外の人も参加できる『株主会議2021 -サイボウズと語る一日-』という場を広く知ってもらうことにあったようです。

このユニークな試みに好奇心を刺激され、私も、株主総会ではなく、『株主会議』なるものに参加してみました。『新しいカイシャを語る』『サイボウズのこれまでとこれからを語る』『みんなでサイボウズを語る』という3部構成、3時間半ほどの会議でしたが、私自身、経営者としても、“おじさん”としても、非常に示唆の多い時間であり、気持ちのいい会議でした。

そもそも、サイボウズは、社長のスケジュールやマネージャーの交際費、全社戦略の議論のプロセスも社内でオープンにするほど透明性の高い会社ですが、透明性を徹底すれば、社外取締役すら必要ないはずと考え、自由で柔軟な会社であり続ける、また、あり続けようとする姿勢に敬服します。一方、開示義務や規制、ガバナンスでがんじがらめに縛られた上場企業に比べたら、本来、もっと自由であるはずの中小オーナー企業は、その“自由”を謳歌できていない、有効に活用できていないといえます。

今回、オンラインで開催された『株主会議』は、サイボウズの約25.000人の株主からは約500人が参加し、株主以外の人が1,000人以上申し込んだそうで、むしろ、株主以外で『会社のありかたを共有し一緒に考えたい人が集う場』になったといえます。

これに倣い、中小企業こそ、株主に加え、親族や社員、さらには第三者でも会社のことを一緒に共有し考えたいという人が集まる場、事業承継も含め、会社のこれからを自由に語り、考える場が必要ではないでしょうか。中小オーナー企業こそ、もっと自由に考え、動くためにも、『株主会議』が必要だと考えます。

もし、『うちでもやってみたい』と思われた、オーナー経営者がいらっしゃれば、損得なしで、企画、提案、参加者として加わってみたいなと思います。一人で踏み切るのに躊躇される経営者がいらっしゃれば、ぜひ、お気軽にお声がけください。

以 上

<真>
2021年3月

神のみぞ知るVol.30

2021年、新しい年を迎えました。

2020年は誰にとっても想定外の1年でしたが、コロナとの戦いはまだ終わってはいません。特に、今年は、オリンピックは開催されるのか?ワクチンは有効なのか?いつコロナは収束するのか?といった不確定要因が多く、経営者の方は今までにないほど悩みながら、意思決定を重ねる年になるでしょう。

年末年始は、みな帰省もせず、初日の出はライブ配信、福袋はネットで予約購入など、いつもとは様変わりの風景となりました。とはいっても、オンラインでの初詣はどうなのかな・・・とは思うところです。

昨年、コロナの感染者数の動向に関して、『神のみぞ知る』という、政治家の発言が物議を醸しました、もちろん、無責任に口にされては困る言葉ですが、ただ、悩みに悩んで、やるべきことをやり尽くして、極限ともいえる領域に達して決断したなら、あとは『神のみぞ知る』と言いたくなる気持ちはわからないではありません。『人事を尽くして天命を待つ』とも言いますし・・・。

一つの重い判断を下すということでは、オーナー経営者にとっての“事業承継”という決断も同じです。息子に任せられるか?親族外の誰かに承継できるのか?M&Aより廃業したほうがいいのか?今やるべきなのか?など、決断に至るまでには迷いは尽きません。ただ、経営者として悩みに悩んだ末に行き着いた答えであれば、それが最善の決断であるはずです。

後を託された社員の皆さんも『社長が決めたことなら』と、その意志や想いをわかってくれるはずです。もちろん、想いのすべてをすぐに理解するのは難しいかもしれません。でも、その後、会社がより良くなっていくに従い、先代が選んだ答えの真の意味を理解し、不安や惑いといった想いのすべては感謝に変わっていくはずです。そして、その答えと理解にまでたどりつけるかどうかは、社員の皆さん自身の意識と努力次第でもあったりします。

事業承継にあたっての決断に絶対の正解はありません。もし、後々、後悔の念がよぎったとしても、決断した瞬間には正解であったはずです。その決断を正解とし続けるのは、オーナー経営者の責任や力量ではなく、もはや、受け継いだ人たちの責任と努力に因るものとなります。だから、何が正解か、誰にとっての正解か、いずれにせよ、事業承継の決断が“正解”だったのかどうかは、まさに“神のみぞ知る”ことなのです・・・というと、物議を醸すでしょうか?我々、事業承継ファンドの仕事は、その決断を“正解”にすることでもあります。

今年も、経営者には、いろいろな決断が迫られ、悲喜こもごも、さまざまなドラマが展開されるでしょう。今年はどんなドラマを描けるか。新しい出会いがあるか、楽しみです。どのような出会いがあるかは“神のみぞ知る”ですが、人と人との出会いが減った今こそ、人との出会いを大切にする1年にしたいです。

以 上

<真>
2021年1月