コラム “志・継・夢・承”
事業承継やM&Aにまつわる思いを
気ままに綴っています

2026年

ざわつく季節Vol.84

酷暑と大雨に振り回されながら、季節は秋。1年の速さと短さを感じるなか、中小企業のオーナー経営者の方が、『年内に会社を売る・売りたい・売った方がいいと言われた』という話をよく耳にします。その背景には、高所得者対象のミニマムタックス制度が2027年分から強化され、特別控除額が3.3億円→1.65億円に引き下げられたり、最低税率が22.5%→30%に引き上げられたりすることがあります。つまり、自社株の売却で億円単位の譲渡益が生じる場合、今年か来年以降かで手取り額が大きく変わります。もっと早く教えてほしかったといわれるかもしれませんが、上場株ならまだしも、非上場の自社株の場合は、“株式売却=事業承継”ですから、売りたいと思ってもすぐにできることではありません。

そして次は、第三者ではなく親族内でいずれ承継しようと考えている、オーナー経営者の方が気になる話が待ち構えています。非上場株の相続税評価を見直す議論です。

国税庁が、現行制度の課題を踏まえて見直し案を提示し、国税庁が設置した「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」が、税制・M&A・会社法等の専門的な観点から意見するという役割で議論を重ねています。特に、国税庁には、『評価方式次第で評価額に大きな乖離が生じる』『類似業種比準方式では規模の大きい会社ほど低く評価されがち』『配当還元方式の還元率が現実と乖離している』等、公平・適正な評価ができているか、会社規模や算定方式による不公平があるのではないかといった問題意識があるようです。

一方、有識者会議は、『企業規模で評価方式を変える方式ではなく、より統一的な方式を検討すべき』『上場企業の株価に左右される類似業種比準方式は合理的ではない』等、非上場株を上場企業と同じような発想で評価していいのか、所有と経営が一致している中小オーナー企業の株式を高く評価し過ぎると事業承継が阻害される、と“評価の合理性”を問うています。まだどうなるかはわからないものの、わかりやすい評価方式(企業の保有資産や収益力を基準)となり、中堅・黒字企業は評価額が高く、中小・零細企業や赤字企業の評価は低くなるといったように、よりシンプルになるという流れではあるようです。

「公平な課税をどう実現するか」+「企業経営や事業承継の現実をどう織り込むか」といった議論の結果、非上場株の評価方式がどう変わるのか?自社株の評価が上がるのか、下がるのか?相続を控えたオーナー経営者にとっては大問題です。1964年以来、約62年ぶりの非上場株の相続税評価の抜本改革です。これから来年にかけて、オーナー経営者の方の関心事になってくるでしょう。徴税へのこだわりは人それぞれですが、税制の変化が、これまで事業承継を先送りしてきた経営者の背中をじわじわと押し始めています。夏が終わり、ざわつく季節はこれからです。

以 上

<真>
2026年9月

春・夏・暑・秋・冬Vol.83

もう、猛暑の話題はうんざりかもしれませんが、触れざるを得ません。日本では猛暑日や酷暑日が続き、欧州を熱波が襲う。たまたま日本だけ、今年だけという暑さではなく、これからは日常として受け入れる覚悟が必要となってきました。時すでに遅しなのか、これが地球温暖化ということかと思い知らされます。

日本の四季に猛暑を加えて“春夏夏秋冬”という“五季”を提唱したアパレル業界では、季節感が薄れただけでなく、ネット販売の定着や消費者の意識が変わってきたことで、夏や冬のバーゲンも一時の勢いはなく、商売の前提や常識が一変しました。こうした“想定していた変化の顕在化”や“想定外の変化”が当たり前のように日々に降りかかってくる時代となりました。

“想定外”や“変化の顕在化”でいえば、他にも「中東から原油が届かない!」「非日常のはずの戦争が日常となる!」「戦火にあるウクライナが“ドローン大国”になった!」「国内の日本人人口が1億2,000万人を下回った(42年ぶり)!」「日本在住の外国人が400万人超で過去最多!」「日本に金利が戻ってきた(31年ぶりの1%)!」などが挙げられますが、いずれも明らかに今までとは違うなにかを感じさせる“変化”です。

こうなると、これまで『まだ時間がある』と構えていたことも、四季が穏やかに巡る時代が前提であったからこそで、今後、さらに変化が増幅し加速化すれば、さらには、世界の中でも日本が、為替・EV・半導体・ドローン・宇宙ビジネスなどで後塵を拝し弱体化する時代になるようなら、これまでのような『いずれ』や『そのうち』といった考えは通用しなくなります。

同じように、事業承継でも、『そのうち引き継ぐ』とか『70歳になったら考える』など、承継の時期を先送りしたり、将来のイベント(点)としたりせずに、今この時点からのプロセス(線)と捉えて考える必要があります。具体的には「後継者に権限委譲して意思決定の機会を与える」「後継者に成功も失敗も経験させる」「第三者承継の可能性を探る」といった試行錯誤を日常のこととして、事業承継を“点”から“線”にしなくてはなりません。自然のままに季節が巡るのを待つのではなく、変わることのない12ヶ月を自らの意思で設計する。事業承継は“待つ”ものではなく“設計する”ものだという前提での意思と行動が、事業承継を進める原動力となり、次世代へとつなぐ力になります。

想定内・外の変化が降り注いでくる時代、経営課題の先送りはリスクでしかありません。まだまだ“夏+暑”は続きそうですが、『そのうち涼しくなったら・・・』というガマンや先送りは日々の生活だけのこととして、事業承継や経営課題の解決には今のうちから汗をかくこととしましょう。

以 上

<真>
2026年8月

強豪と呼ばれるためには?Vol.82

サッカーのワールドカップ(W杯)も、“にわか応援団”としては、日本代表が帰ってきたら一区切りです。でも、これまでの間、各チームのお国柄や選手一人一人の人生がクローズアップされればされるほどサッカーというスポーツの奥深さや面白さに興味は尽きませんでした。さらに、企業経営や事業承継に通じるものを感じれば尚更です。例えば、『代表メンバーの構成』や『選手交代』は、その意図や背景、いろいろと興味深いです。

日本人史上最多のW杯5大会連続出場の長友佑都選手も話題になりましたが、日本代表26人のうちW杯初選出は半数の13人でした。若返りが進みながらも海外で活躍する選手が名を連ねたことで安心感もありました。ただ、今回、日本が戦った強豪国のブラジルは、ネイマール(4回目)を筆頭にW杯経験者のベテラン比率が高く、初出場は26人中9人です。日本は“次世代への継承を見据えながらの若返り”、ブラジルは“ベテラン中心に若手を育てながらの承継”といったところでしょうか。強豪国の多くは、W杯という大舞台を知る選手を軸にしながら新しい戦力を組み込むという、安定した世代交代で“経験の継承”を進めているようです。

また、各国の代表監督は、それぞれの国のサッカーの未来をも考えながら選手を起用し育てる一方で、一試合90分という目の前の勝負にも向き合っています。一試合での選手交代の枠は5人、ほとんどの監督が交代枠を使い切り、最後まで同じ11人で戦うという発想はありません。環境や状況が変われば戦術も変える、当然、人も代え、役割も変える。選手の交代は否定ではなく、シンプルに、代えられるのなら代えて、その瞬間ごとに勝てる確率が最も高い布陣を組み続けるというのが、監督の責務です。

あわせて、“今勝つこと”と“次勝つこと”の両方を考える。“次”や将来を考えて、たとえ15分でも若手を起用するなど、一試合のなかでも、“秒単位で変わる状況判断に基づく采配”から、選手やコーチを育てるといった“将来像を見据えて打つ布石”まで、意思決定の時間軸のギャップとスピードは、企業経営者以上に大変かもしれません。ただ、経営者も監督も、勝ち続ける会社(チーム)であるために、“主役(先発11人)”だけで戦い続けるのではなく、“中堅・若手の幹部社員全員(90分後に勝つための23人)”で戦うという人事や配置を考え、決断し、即実行しながら、次のリーダーを育てるというのは同じです。

こうして、世代交代や権限移譲、組織づくり、人材育成などを企業経営や事業承継と紐づけながら観るサッカーも楽しいですし、もちろん、強豪国同士のレベルの高い試合は、純粋に楽しめます。W杯の決勝は、日本時間7月20日午前4時キックオフ。幸い、日本は祝日(海の日)ですが、起きる・・・?寝てる・・・?にわか応援団にとっては、また悩ましい時間です。

以 上

<真>
2026年7月

ほんとはどうあるべきか?Vol.81

この春、古書店が軒を連ねる本の町、東京・神保町で、町の象徴ともいえる三省堂書店(神田神保町本店)が全面リニューアル、約4年半ぶりに営業を再開しました。オープン当日は朝から800人もの行列ができたそうです。三省堂書店は、1881(明治14)年に亀井忠一氏が神保町で古書店として創業、今では、年商166億円、全国19店舗、従業員132人を5代目の亀井崇雄社長が率いている老舗の書店です。古書店街としての歴史を背負ってきた神保町のまさに一丁目一番地に位置する、創業145年の老舗の“本屋”(あえて本屋といいます)が、地上13階のビルに建て替えられたということではなく、本屋という業態そのものを問い直し、どう生まれ変わったのかが気になるところでした。(ちなみに、以前は6階建ですべて店舗。新店は1~3階が店舗。店舗面積は以前の7割、蔵書も7割の約50万冊!)

訪れてみた新本店のコンセプトは、『歩けば、世界がひろがる書店』。町との一体化を目指したという、見通しのいい1階フロアは、本棚がすり鉢状に連なり、一面、本だけ!の“知の渓谷”が広がります。本屋に求められる要素の“網羅性”と“偶然性”の偶然性を追求し、店内を歩くだけで自然に新しい本に出会い、世界が広がるような空間設計になっています。本屋の本質は、『知との出会いを提供する』であるとして、“本を売る場所”から“人を集め、体験を提供し、価値を届ける場所”へと進化したようです。ただの“変化”ではなく“進化”=本質を追求した変化を感じます。

今、こうした“進化”が求められているのは、事業承継に直面する中小企業も同じです。後継者は、事業承継にあたり、過去を引き継ぐと同時に、会社の価値と事業の本質を見極め、存在意義を再定義し、次の時代へと進化させることが求められています。『事業をどう守るか』ではなく、『本質を追求して見出した価値をどう提供するか』を考えて未来を描かなくてはなりません。

本屋の話は、東京だけのことではありません。日本では“無書店自治体(書店がゼロの自治体)”が急増、全国1,741市区町村のうち482自治体、地方を中心に約3割の自治体には本屋が存在しないとされています。ただ、最近は、個人経営や小規模な独立系の本屋が増えており、ここ3年は毎年100店前後が新規開業しているようです。本をたくさん並べて売るのではなく、「カフェやギャラリーを併設」「店主のセンスで選書」「SNSで全国からファンが集まる」といった本屋?場所?に進化しています。

新しい“本屋”がみなさんの近くにもありますか?知との出会いがある場所ですか?
本との出会いも楽しみながら、本屋として「何を残して、何を変えたか」も見つけてみてはいかがでしょう。そして、“ほんとは?”について考えてみるのもいいかと。

以 上

<真>
2026年6月

担がれ続ける神輿Vol.80

短かった!楽しかった!と、人それぞれのゴールデンウィーク、全国各地では、地域に根付いた、さまざまなお祭りも催されました。地域の例大祭は、神社をはじめ、町会や商店も総力戦で支える、地域の結束を確認する場でもあります。当社のオフィスがある、神田三崎町(東京都千代田区)でも地元の三崎稲荷神社を中心に約800年の歴史を持つ、2年に一度の例大祭が執り行われ、2日間にわたり神輿や山車が町中を練り歩きました。

こうしたお祭りの神輿は、基本、氏子中や保存会やなどの地域単位で管理運営がなされ、担ぎ手は氏子、資金は町会単位で集めるなど、地域のなかで受け継がれています。ただ、最近は、担ぎ手がいなくて地域の外から募集するなど、人材不足の悩みも抱えており、中小企業と似たところもあります。例えば、他にも、“神輿”にまつわる『町会(氏子中)、渡御、世話人、若衆、修繕費、伝統作法』などは、“中小企業”の『株主(同族)、経営、役員、幹部、設備投資、組織文化』と重なるなど、事業承継のヒントにもなりそうです。

神輿は、誰か特定の人のものではなく、地域の共同体で有する資産であり、地域の住民や氏子といった人々のつながりかた=“関係性”を象徴するものです。ゆえに、組織のリーダーが抜けても祭りは続き、神輿は受け継がれます。一方で、多くの中小企業は、オーナー経営者の事業承継の局面で一気に課題が顕在化します。これは、そもそも“(会社や神輿を)誰のものとして存続させるのか”という思想や設計の違いによるともいえます。

祭りや神輿の承継は一夜にして行われるものではありません。それこそ、“こども神輿”から始まっています。こどもから、やがて若衆が担ぎ手となり作法や段取りを体得し、最終的には、世話人として運営を担い、全体の差配を引き受ける。形式的な引継ぎではなく、役割の移行が連続的になされています。さらに、華やかな祭りを裏で支える、神輿の管理や修繕、資金調達、近隣調整等々の細かなことも日常の中で引き継がれています。

老若男女が笑顔で担ぐ勇壮な神輿を観て、事業承継にもあてはまるのではと学んだことは、「関係性の分散→所有と統治を分ける」「役割の移行→連続して常態化する」「外部の関与の設計→継続的なものと位置付ける」といったことでしょうか。

神輿が地域で数百年以上も継承されるのは、地域の共同体に帰属し関わる人が少しずつ責任を分散させ、引き受けて、役割を移していくという“関係性の分散と移行を連続させる”というシンプルだけど手間のかかることが、日々の営みとして回し続けられているからだという思いに至りました。

『誰のものとして続けていくのか?』という前提を明確にして、承継を一時のイベントとせずに“設計”し、さらに設計したものを“文化”として運用することで初めて、数百年にわたる継承が成される・・・。神輿の裏には、人がつくり、人がつないできた、すごい“承継”の仕組みがあると気づかされたゴールデンウィークでした。

以 上

<真>
2026年5月

春、自立の季節Vol.79

4月、就職や進学で親元や地元を離れて独り暮らしを始めるなど、自立への一歩を踏み出した方も多いでしょう。新しい環境で独りになると否が応でも、自分と向き合う、なんでも自分でやる、自分で責任を持つのが当たり前になる、その積み重ねが“自立”です。

事業承継でも“自立”を意識する場面が多々あります。たとえば、家業を継いだ2代目が、周囲の声を聞くことなく自分の思うままを押し通すのは、必ずしも自立とはいえません。会社の歴史や将来、目の前の課題や周囲を見渡しながら自らで意思決定を重ねて行動する。それが、引き継いだ者の“自立”の姿です。

中小オーナー企業では、会社としての自立もあります。事業承継やM&Aで株主や経営者が代わる。今まですべてを決めてくれていたオーナー社長が会社から離れたなら、残された役員や社員は、オーナー社長がいなくなった不安もこれからへの期待も自らの想いも全部受け入れながら、自分で考え、選び、責任を持って行動する。みんながそうなれば、会社として自立できます。

世界は違いますが、東京大学先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎教授は、“誰もが助けを求めやすくなり、生きやすくなる社会”を目指すなかで、『自立とは依存先を増やすこと』と定義しています。自立は依存の反対語ではない、誰にも頼らず一人で生きるのが自立ではない、むしろたくさんの依存先があれば一つがダメでも他で補える。依存先の選択肢が多ければ多いほど特定の何かに縛られず、むしろ、自分の意志で選択できる“自由”が生まれるとしています。

中小企業も自立した経営を望むなら同じかもしれません。中小企業の場合、結局、社長であり株主でもあるオーナー経営者だけに依存しがちです。であれば、依存先、つまり頼れる先をオーナー経営者以外にたくさん増やすことで自由が生まれ、自立できるはずです。株主や社外の役員や相談相手、取引先といった依存先を増やし、むしろ、たくさんの人に依存しながら課題を乗り越えている状態になれば“自立”といえます。そう考えると、たとえば、M&Aやファンドで株主や経営が変わるということも、依存する先を増やすチャンスであり、会社の自立につながるともいえます。

さあ、春です。会社や学校、新しい環境下でうまくいかないことがあれば、誰かに少しずつ頼っていいんです。頼れる先を増やして何者にも縛られないようにして、自分で考えて自由に決めることができる環境にする。誰かの助けを借りていても、最後は自分で決めたなら“自立”です。頑張りましょう!

そして、経営者は、身を引かずとも、あえて“依存先を増やす”ことで、会社を自立させてみませんか?

以 上

<真>
2026年4月

目指せ、甲子園!Vol.78

中小企業庁が主催する「アトツギ甲子園」の決勝大会が2月に東京で開催されました。未来の経営者となる39歳以下の中小企業・小規模事業者の後継者=“アトツギ”が既存の経営資源を活用した新規事業のアイデアを競うピッチイベントです。今年は全国から225件がエントリー、書類選考を通過した90名が北海道から沖縄まで全国6ブロックの地方大会に参加、さらに勝ち抜いた18名のファイナリストが決勝大会でプレゼンテーションをしました。オンライン観戦をしたのですが、モニターからでも、アトツギを応援する社員や地域のサポーターの熱い声援が飛び交う会場の熱量が伝わってくるほどでした。

2020年から始まり今年で6回目。第1回のエントリー95件から回を重ねてきたなかで、大手企業から声がかかり事業化に至るなどの実績もでき、アトツギ甲子園が、事業パートナーを呼び込む場、あるいは、地域の仲間と団結する場、アトツギが自らを鼓舞して成長する場となって、いろいろな人を巻き込みながら、アトツギによる事業承継を通じて日本を変えていくという好循環ができつつあるようです。

例えば、今回のファイナリストとなったアトツギ18名が担う既存事業は、石こう鋳造やマッチ、仏壇、石材、宮大工、刃物などの成熟した業界や伝統産業が多く、放っておけば衰退するマーケットです。こうした難しい市場にアトツギが背水の陣で臨み、新規事業を立ち上げて挑戦する姿やそのアイデアは、企業の規模や後継者の有無を問わず、すべての企業や経営者にとって学ぶべきことが多く、なによりも、挑戦する勇気を与えてくれるものです。

また、地方大会で敗れても何度も挑戦するアトツギや、地域をあげて応援するサポーターたちの姿は、まさに甲子園を目指す高校野球のようです。ちょうど今、WBCの真っ最中、日本代表の侍ジャパンにもメジャーリーガーにも、花巻東や敦賀気比、都城、九州学院など地方出身で甲子園に出場した高校球児がたくさんいます。地方から勝ち上がり、夢をもって熱く挑戦する高校球児の姿はアトツギの奮闘する姿と重なり、まさに“甲子園”という表現がぴったりです。2020年の創設当初、そこまで深い意味や意図が込められて命名されたのかと思うと、“アトツギ甲子園”に込められた創設の想いは形になりつつあるのでしょう。そして、それは必ずしも事業承継だけではなく、地域創生や新事業創出といった相乗効果までも生み出しています。地域での挑戦を応援するプロセスからさまざまな相乗効果をも創出する“甲子園”は、地域経済活性化のための生態系の重要な一つの機能を成しているともいえます。

みなさんの地域でも頑張っているアトツギがいれば、それは、地域としての“挑戦”です。アトツギにも高校球児にもぜひエール送ってください。春のセンバツも全国各地で始まる季節です。

以 上

<真>
2026年3月

票を読み、風を読む、その先に。Vol.77

年明け早々から選挙一色。戦後最短の16日間という衆院選で、議席予想や得票数といった数字が飛び交う日々も終わりました。そして、その結果の数字に『1+1が必ずしも2にならない』ことを再認識しました。二つの政党が一つになっても議席がそのまま増えるわけではない。制度上の理由はあるにせよ、足し算や引き算どころか割り算にもなる。

結果としての数字は一票一票の積み上げであるものの、そのなかには、必ずしも諸手を挙げての支持ではなく、他に選択肢がないからといった消極的な一票もあります。“票を読む”には、数字に現れないもの、つまり、不満や無関心、迷いといった“数字の裏にある意思”も読まなくてはなりません。

M&Aでも同じようなことがあります。株主総会での決議をはじめ、物言う株主のアクティビストの登場やTOB(株式公開買い付け)といった場面では“株主の一票”が注目されます。こうしたM&Aの場面においても、株主が投じる一票は、賛成ではあるものの、ただ応じただけという意思に拠るものも少なくありません。

高市総理は、今回の選挙を『高市早苗が内閣総理大臣でよいのか国民の皆様に決めていただく選挙』とし、有権者は『国のリーダーを任せていいか』を判断しました。票によってリーダーを選び、その成果を評価する仕組みは民主主義も資本主義も同じで、株主の場合は『この経営者に任せていいか。今の経営を続けてほしいか。』に票を投じます。

ただ、票を集めても、票の裏にある意思が読み取れなければ、いずれ見放されます。例えば、「投票率が低い」「票が伸びない」といった裏には“有権者の沈黙”という反対票があります。TOBであれば、「株価が上がらない」「出来高が増えない」という裏には“マーケットの沈黙”という反対票があると読まなくてはなりません。政治家がよく言う『選挙結果を分析しなくては…』というコメントは、結構、奥が深いものなのかもしれません。数字の表と裏のいずれをも読む必要があるのでしょう。

選挙にもM&Aにも“過半数を取れば支配できる”という明快な数字のルールがあります。ただ、政治でもマーケットでも票や議決権を集めたことがゴールではなく、その先、数を制して支配できる立場となって何をするのか、が重要です。政治であれば、与党として主導権をもって日本の社会経済をどう変えていくか。企業であれば、経営を託されて企業価値をどう上げていくのか、が求められており、本当に果たすべきことです。

票読みの時間は終わりました。ここからは、政治も企業経営も、目に見えた票と目に見えない票の真の意思を感じながら、託された責任の下で結果を出していくだけです。

以 上

<真>
2026年2月

経営の“式年遷宮”Vol.76

2026年、丙午、転換点となりそうな一年です。今年もよろしくお願いいたします。

年末年始はいつものことながらあっという間に駆け抜けていきました。みなさんは、忘年会、大掃除、年越しそば、初日の出、年賀状、おせち料理、初詣など、年末年始の風習をいくつ体感されたでしょうか。年神様を家に迎えるために大掃除をし、健康と幸福を願って年神様におせち料理を供え、初詣で神社に参拝して旧年の感謝を伝え新年の無事や幸せを祈る。こうした行いは、時代とともに次第に薄れてきているとはいいながら、日本人の信仰や文化に深く根付いたものでもあります。

日本の神社の象徴的な存在である伊勢神宮には、“式年遷宮(しきねんせんぐう)”という1300年以上にわたって続く伝統的な儀式があります。20年に一度、社殿を造り替え、御装束や神宝をすべて新調し、天照大御神に新しい宮へお遷りいただくという、日本で最大の神事です。常に新しく瑞々しい社殿で永遠に変わらないお祭りが行われることにはさまざまな意義があります。

例えば、“常若”という、古いものを一新することで常に新しく、永遠であり続けるという思想です。常に新しく清らかであるために、古くなったものを直すのではなく、新しく生まれ変わらせることで、神宮の永遠性や神聖さが保ち続けられます。神様にお仕えする場は常に最も良い状態であるべきという、神様への最大の敬意の表れでもあります。

また、技術や古来伝統文化の次世代への継承という目的もあります。宮大工の技術、祭祀の作法、木材加工や装飾の技、御用材選び、大径木を確保する森林を育てるところまで、実際に造り替えることでしか伝えられない技術はもちろん、文化や信仰の心を守り、人を育て、継承します。20年に一度という周期も、神事に関わる方々の人生に2度巡りくることで、次世代への継承が円滑に進むという合理的な考え方に基づいているものでもあります。

前回の式年遷宮は2013年の62回目の遷宮でした。次は、7年後の2033年に遷御の儀が行われます。ただ、次の遷宮に向けた行事は既に2025年から始まっています。今年からは“御木曳(おきひき)”をはじめとした御神木のお祭りや儀式が執り行われ、2028年から2032年にかけては社殿建築のお祭り、2033年にはいよいよ神遷しのお祭りの「遷御(せんぎょ)の儀」が行われます。2033年の式年遷宮に向けて、もう8年も前から準備が始まっているばかりか、200年後の御用材となる檜の森を日々育ててもいます。まだまだ目に見えない苦労や努力もたくさんありそうですが、日本人ってすごいなと改めて感心する次第です。

さて、2026年、先人に倣い、自分に置き換えると何ができるか?

会社が、常に“最も古く、最も新しく”あり続けるために、“経営の式年遷宮”をどうするか?を考えたいと思います。それこそ、“心御柱(しんのみはしら)”を見出すための永遠の森を育てるところから、皆さんと一緒に考えられるように動く一年にしたいと思います。

以 上

<真>
2026年1月