コラム “志・継・夢・承”
事業承継やM&Aにまつわる思いを
気ままに綴っています

2019年

“東京” って特別ですか?Vol.20

東京オリンピック・パラリンピックまであと200日余りとなりました。東京では、街のふとした情景が変わることでお祭りが近づきつつある実感が湧いてきます。ただ、“東京”という場所が注目されればされるほど、相対する“地方”に比べて、東京という“特別感”がイメージとして独り歩きしすぎている気がします。

東京って、そんなに特別でしょうか?

東京の中小企業や小規模事業者も、“地域”という視点でみれば、事業承継問題をはじめ、オーナー経営者が抱える課題は地方の企業と同じです。東京23区内でも至る所に下町の風景や昔ながらの家業や商店があります。“地域”に根付いて一生懸命に事業を営む経営者の姿は、東京も地方も何ら変わりはありません。“東京”も小さな地域の集まりにすぎず、地域に根差す地元企業の集積地です。ゆえに、地方と同じように、あるいは、それ以上に、けっして特別ではない“東京の中小企業”にももっと目を向ける必要を感じます。

例えば、東京都の企業の約6割超がメガバンク3行のいずれかをメインバンクとしています。一方で、東京以外の都道府県では(大阪を除く)、各地の地方銀行が地元企業の3~5割超をおさえるメインバンクとなって貸出のトップシェアを握っています。この数字だけみても、東京の中小企業は大企業や氾濫する情報のなかに埋もれて、取り残されている気がします。

東京一極集中を是正しようと「地方創生」が掲げられ、内閣に地方創生担当大臣が任命されるようになってから4年になります。もう、その視点は“地方創生”ではなく“地域創生”でいいのかもしれません。都会も地方も関係なく、ひとつひとつの“地域”にこまやかに目を向けて、地域や地元企業を元気にしていかなくてはなりません。

東京オリンピック・パラリンピックというお祭りは、夏の終わりとともに、夢のあと・・・となるでしょう。今から、お祭りが終わった後を見据えて、来年、2020年は、しっかりと“地”に足を・・・いや“地域”に足をつけて、地方創生から「地域創生」へと意識も行動も変えていく年にしなくてはなりません。

以 上

<真>
2019年12月

社長になる‟覚悟”と‟道程“Vol.19

蝉の声が秋虫の音に変わり、夏の出来事も思い出に変わる頃ですが、この夏は、2人の経営者と久しぶりの再会を果たしました。今は2人とも働き盛りの50代で中小企業のオーナー経営者ですが、ほかにも、その経歴には共通点があります。
「中小オーナー企業に入社。その後、役員に登用された。」
「共に歩んできたオーナー社長が高齢となり、会社をファンドに譲渡した。」
「引退したオーナー社長に代わり、期せずして、社長に選ばれた。」
「突然かつ初めての社長業に必死で取り組んだ。」
「経験と時を重ね、経営者としての自覚が芽生え自信もついてきた。」
「この会社は自分が経営するしかないという思いに至った。」
「借金をしてファンドから株式を買い取り、自らがオーナー経営者となった。」
「それから数年経った今、借金を完済し、晴れて自らの会社となった。」

つまり、2人とも、いわゆる‟MBO”(マネジメントバイアウト、経営陣による買収)を果たした経営者です。昨今、中小オーナー企業の事業承継において、特に、第三者への承継とその支援がクローズアップされていますが、この2人の事例はレアケースだと簡単に片付けられる話ではなく、むしろ“モデルケース”になるといえます。

もし、先代がM&Aで事業会社に会社を売却していたら、社長になることはなかった2人です。あるいは、先代から、直接、事業を承継することができていた場合でも、今と同じように順調に会社が成長したかというと必ずしもそうではない気がします。2人の経営者がMBOにあたって背負った借入は、会社を通じて返済や保証があるとはいえ、最後はすべて個人の責任です。でも、『株主が見ず知らずの誰かに代わってしまう前に自らがオーナーとなって会社を背負う!』という覚悟があったからこそ、今の会社の発展があるのだと思えます。

また、第三者であるファンドが介在し、新しい社長の経営のパートナーとして二人三脚で、「オーナー経営のしがらみから脱却、リセットしたうえで‟見える化”して組織経営に移行する」というプロセスの構築に取り組んだことで、MBOによる“第3の創業”が確実に成し遂げられたとも考えられます。

‟社長”に到るまでの道程は、「昔ながらの創業」「今どきの起業」「同族での承継」「サラリーマン社長としての順番」など‟百人百様”×‟百社百様”で、それぞれなりの覚悟と道程があります。事業承継した創業社長であれ、MBOした経営者であれ、‟社員のため”を第一に思って決断し、行動している点は同じであり、MBOを成し遂げた経営者は、もはや創業経営者に負けず劣らずの立派な経営者になったといえます。

MBOを経て真の経営者になった2人との再会はこの夏のかけがえのない思い出です。

以 上

<真>
2019年9月

“株主総会”を開催できますか?Vol.18

3月決算の上場企業が定時株主総会を開催する時期です。みなさんの会社でも“株主総会”を開催されたでしょうか?中小企業、オーナー企業であれば、そもそも、株主は社長一人だけだから開催したことがないという会社がほとんどでしょう。ただ、社長以外の誰かも株主になっている場合、これからいろいろな問題が起こる可能性があります。

ついては、質問です。

  1. 株主名簿はありますか?
  2. 株主全員の顔が思い浮かびますか?みなさん知っている方ですか?
  3. 株主全員の所在や連絡先がわかり、すぐに連絡がとれますか?
  4. 名義だけの株主はいませんか?
  5. 今の株主が実際に資本金を払い込んだことを客観的に示すことができますか?
  6. 株主が変更した際の株式や資金の動きを示す証憑がありますか?

思い起こせば、平成2年の商法改正まで、会社設立には7名の発起人による出資が必要だったゆえ、
それなりの確率で“名前だけの株主”が存在しても不思議ではありません。

昭和の時代に設立された会社がいよいよ事業承継の時期を迎え、いざ株式を動かそうとした際には、
必ず、『今の株主は真正たる株主か?』が問われます。もし、その株式に驚くような価値がついた場合、数%の出資比率の株主や名義株主でも、数千万円、場合によっては、億単位の価値のある株式を保有していることになっている可能性もあります。その価値が明らかになってから買い取る場合、価格をどうするか、買取理由をどう説明するか、税務的にも心情的にも悩ましいです。さらに、その株主も、既に会社を離れた役員や社員、遠い親戚、先代の友人、今勤めている社員、場合によっては、相続で見ず知らずの人・・・などいろんなパターンがあるでしょう。もちろん、法的な手続に則り、少数株主として“排除”
することもできますが、あまり現実的ではありません。また、株主名簿と実態とを合致させるにしても、
資産の異動が伴い、税務の問題もつきまとうので、簡単に書面を書き換えれば済むという話でもありません。

オーナー企業であっても“株式会社”である以上、株主総会は他人事ではありません。事業承継が具体化する前に、株主総会が実際に開催できるかどうかをイメージして、株主の整理、つまり、株主名簿と実態とを一致させるよう、即、行動に移されることをお薦めします。

以 上

<真>
2019年6月

‟終わり”と‟始まり“をつなぐものVol.17

いよいよ、4月末の天皇陛下の生前退位を控え、『平成最後の○○』という言葉が熱を帯びてきました。平成という時代が幕を下ろし、新しい時代が始まる。まさに“終わり”と“始まり”、その節目が目前に迫っています。

何を終えて、何を始めるか?その‟終わり“と‟始まり”と繋ぐのは、いつも‟自分自身“です。約200年ぶりともいわれる生前退位も、その‟お気持ち”が示されたがゆえに、日本が新しい時代に向けて動きだしました。いろいろと難しい議論や論点もあるのでしょうが、受け身で時代が変わるのではなく、主体性をもって前向きに新しい時代へと進んでいくという感覚をもてるのはありがたいことだと感じます。

もちろん、日本国と一企業を同列には語れませんが、責任ある立場の人間が、その終わりと始まりを自らで決めるという点では事業承継も同じです。我々が取り組んでいる事業承継支援の場面でも、オーナー経営者が事業承継した後、社員の方々も、変化を恐れず、変化を受け入れて、前向きに変わろうとしている方がほとんどです。

ただ、経営者の高齢化という大きな流れのなかでの、最近の“事業承継ブーム(?)”ともいえる状況にはやや不安も感じます。あえて言えば、『なんでも承継すればいいというものでもない』ということです。‟残すべきもの”と同時に‟終えるべきもの”もあるはずです。例えば、『毎年3万社近い企業が廃業している!』『日本を支える中小企業の約3分の1以上の企業が廃業予定!』『廃業で今後650万人の雇用が失われ12人に1人が失業する!』など、数字としては1つの事実であったとしても、“廃業=悪”という風潮はどうかと思います。いつの時代も常に新陳代謝は必要であり、生産年齢人口が減少するなか、生産性の高い企業や成長産業に雇用がシフトする、流動化が促されることも必要です。

ゆえに、“終える”という覚悟と決断も尊重されるべきです。もちろん、その際に、本当に終えるべきか、どういう終え方がいいのか、それは個人だけの問題ではなく、社員や取引先も巻き込む話ですので、専門家の意見にも耳を傾けてください。そのうえで、終えることを過度に気に病む必要はありません。

終わりがあれば、必ず何かが始まります。廃業して事業を捨てるのではなく、新しい何かを始めるためにも‟結業”(個人的に提唱している造語です!)して事業をしっかりと結び終えることが大切です。事業の終わりと何かの始まりを繋ぐ、その結び目をつくるのが‟結業”です。

時代が変わります。みなさんは何を終えて、何を始めますか?

以 上

<真>
2019年4月

“マラソン”派? “駅伝”派?Vol.16

毎年2月から3月にかけてはマラソンの季節です。今年も、年明け以降、大小合わせて100以上のご当地マラソンや市民マラソンが開催されているようで、『もう走った』『これから走る』というランナーの方も多いのではないでしょうか。

人生は、よくマラソンにたとえられます。今、自分は何kmの地点を走っているのでしょう?マラソンは42.195kmと決まっていますが、人生は人それぞれで永くも短くもあるので、どのあたりといわれてもピンとこないですし、そもそもペース配分ができません。

‟人生100年時代”を前提とした生き方を説いた、リンダ・グラットン氏の『LIFE SHIFT』という本が話題になりました。でも、今まで、平均寿命が80歳(女性は85歳)だと思っていたのが、いきなり人生100年時代!と盛り上がられても、42.195kmのつもりで走っていたランナーが、いきなり30km地点で、『もう30kmだから!』と、ゴールが遠ざかったようでもあります。もちろん健康で金銭面でも何の心配もなく長生きできればいいですが、日常生活に支障なく健康でいられる健康寿命は71歳とも言われており、とても完走までのイメージができません。まさに『どう生きるか?』が課題になってきました。

ただ、こうして‟人生100年”と考えると、「人生=仕事」で一生懸命に走ってきたオーナー経営者はふと気がつくのではないのでしょうか?「個人の人生」と「経営者としての人生」は別ものだと・・・。

すべてのオーナー経営者が経営者人生をフルマラソンで走る必要はなく、ハーフマラソンや10kmマラソンであってもいいはずです。さすがにサラリーマン社長ではないので、任期2年、つまり1kmや2kmで交代とはいかないでしょうが、どれだけの距離を走るか、どこをゴールにするかは自ら決めることができます。

『いや走る距離など決めない。最後の最後、倒れるまで走り続ける!』という経営者の方もいるでしょう。でも、いつまでも決まらない、先へ先へと遠ざかるゴールに向かって同じペースで最後まで走り続けられるでしょうか?『倒れたところがゴール!』と言われても、応援する方も、駆け寄る方も大変です。

「人としての人生」と「経営者としての人生」を別に考えれば、「人としての人生」は、いずれゴールを迎えるマラソンです。しかし、「経営者としての人生」は‟終わりのない駅伝”です。いつ誰にタスキを渡すのか?せめて‟次の走者”を決めておかないとタスキを渡せませんし、走る距離もゴールも自分で決めておかなくてはなりません。そうして初めて、会社は、経営者自身の人生を超えて継承されていくことになります。

個人的には、最近、マラソンよりも駅伝を観るほうが面白いと感じるようになったのは、個人が主役の‟マラソン”よりも、‟駅伝”が会社経営や事業承継に似ていると気づいたからかもしれません。

以 上

<真>
2019年3月

(地方創生+事業承継)×成長戦略=?Vol.15

2019年、新しい年になりました。

昨年は、地域金融機関の方々とのやりとりが例年以上に多い1年で、弊社に持ち込まれた相談のうち半数以上は首都圏以外に本社をおく会社でした。地域金融機関が事業承継問題への取り組みに本腰を入れ始めたことで、地方の事業承継案件が顕在化してきたといえます。

低金利が常態化して銀行の収益性が低下、同時に、「地域の高齢化・人口減少」→「借入需要低下」→「貸出残高減少・預貸率低下」という‟悪循環”が続き、銀行のビジネスモデルそのものの転換が求められています。特に、地域と共生する地域金融機関は、目の前の課題としても、「非金利収益の増加」→「コンサルティング業務の強化」に注力せざるをえず、その際に、“M&A”や“事業承継”が重要な営業ツールや切り口として重なってきます。

金融庁が実施した企業向けアンケート調査で、『取引先の経営上の課題や悩みをよく把握し、提供するサービスの効果が高いと評価されている地銀ほど利回りの低下が緩やかだった』という結果もあり、コンサルティング業務を強化することは、目先の非金利収益の増加だけではなく、取引先の経営課題の把握や解決策の提供につながり、「経営改善」→「資金需要の掘り起こし」→「借入需要増加」→「貸出残高増加」といった中長期的な好循環につながるものと期待されます。

よって、やり方次第では、‟悪循環”から脱却し、「地域の高齢化・人口減少」→「マーケットの縮小」→「地元企業の再編・再生ニーズ増加」→「M&A増加」→「ニューマネーの流入」→「生産性・効率性の向上」→「新市場の創出」→「地域の活性化」という好循環へと転換できる可能性も十分にあるはずです。

そうして、前向きに考えれば、今回のコラムのタイトル、
(地方創生+事業承継)× 成長戦略 = 『?』この公式からも前向きな答えが生まれてきそうです。例えば、『地域経済の発展』、『地域金融機関が果たす使命』『地元中小企業の可能性』など、人それぞれでしょうが、個人的には、『事業承継ファンドの活用』というのが答えです!

いよいよ2019年、全国各地で、中小企業の事業承継への対応が本格化します。後から振り返れば、2019年が‟事業承継元年”だったと思うかもしれません。いい答えを導き出せるように本年も頑張ります。どうぞよろしくお願いいたします。

以 上

<真>
2019年1月