コラム “志・継・夢・承”
事業承継やM&Aにまつわる思いを
気ままに綴っています

2025年

足し算を掛け算にVol.69

今年ももうすぐ折り返しですが、M&Aは相変わらず活況です。

最近話題のM&Aを挙げると、まず、7月に国内小売業のトップ10にはいる売上高1.2兆円の巨大流通小売グループが誕生します。大手ディスカウントストアのトライアルホールディングスが、総合スーパーの西友を買収しました。

この2社、『地方本社・スーパーセンター・郊外出店・IT祖業・DX駆使・318店舗』×『三大都市圏・総合スーパー・プライベートブランド展開・毎日低価格・244店舗』という組み合わせです。西友は、2008年にアメリカ小売最大手のウォルマートがM&Aで子会社化したものの売却して撤退した経緯があるなか、今回、ウォルマートを目指すと標榜して成長を遂げてきたトライアルHDが、ウォルマートができなかったことに挑戦するという絵となります。

また、外食業界では、大手外食チェーン「すかいらーくホールディングス」による「資(すけ)さん」のM&Aも話題になりました。

この2社は『全国チェーン・ファミリーレストラン・グループ2,996店舗』×『北九州・うどん・ソウルフード・ローカルチェーン・74店舗』という組み合わせです。企業規模こそ違え、店舗展開、食材の共有や配送効率化による原価低減等のメリットが双方にあります。

この2つのM&Aで、売り手、買い手となった4社のうち、トライアルHDと資さんは、いずれも「福岡県が本社の地方発企業」という共通点があります。

西友やすかいらーくという、全国的に知名度の高い会社と組むことで事業展開も日本中に広がります。いずれ、『資さんって北九州の会社だとは知らなかった』『西友って九州の会社のグループなんだ』と言われるようになるのでしょう。

また、この4社のうち3社には「ファンドが株主になっている時期がある」という共通点があります。
西友は、アメリカの投資会社KKRが2021年に買収して85%の株主となり、今回の譲渡に至ります。すかいらーくHDも2006年にMBO(経営陣による買収)で非上場化した後、2011年にアメリカのファンドのベインキャピタルが株主になり、その後、再上場しました。そして、資さんも、創業オーナー経営者の後継者不在を背景に事業承継ファンドが株主となっていました。ファンドという外部の資本が入ったことで、組織経営の土壌が培われた、あるいは、外部資本に対する抵抗が少ないなど、“開かれた会社”となり、売り手も買い手もM&Aを受け入れやすく、進めやすかったのではと推測します。

M&Aは、2つの会社が一緒になるという“足し算”ですが、お互いのノウハウを移植する、意識を変える、相乗効果を出すことで“掛け算”にもなります。そして、どちらが買った、どっちが売ったという立場は関係なくなり、対等に掛け合うことができれば、不可能と思えたことが可能となります。

「2+2=4」も「2×2=4」も同じ、でも、「3+3=6」だけど「3×3=9」。足し算ではない、掛け算の答えは、まさにM&Aの妙味、今後、この4社がどう変わっていくのか楽しみです。

以 上

<真>
2025年6月

昭和100年の桜Vol.68

お花見の季節が終わり、例年であれば、近所の桜並木が新緑の並木道に変わるはずが、今年は桜の木の伐採が始まりました。見た目にはわからないものの、つい先日まで咲き誇っていた桜も樹齢50年を超えた老木で、幹の芯は蝕まれ、倒木の危険があるからとのことです。約1キロにわたるソメイヨシノ150本のうちの60本が伐採されて新しく植え替えられる予定です。

桜の寿命は、百年千年というイメージでしたが、品種によってかなり違い、原種の山桜の寿命は200~300年と永く、特にエドヒガンザクラの樹齢は1000年、日本最古の桜は樹齢2000年ともいわれています。一方、目にすることの多いソメイヨシノは、江戸時代末期に交雑して生まれた品種で成長は速いものの寿命は短くて約60年、永くても100年ということで人間の寿命に近い感覚です。

ただ、何年か前に伐採された桜の木の切り株の脇から、『まだ生きているぞ!』と言わんばかりに勢いよく枝が伸びていました。これは“ひこばえ(孫生)”や“萌芽(ほうが)”と呼ばれ、植物の上に伸びるエネルギーが脇の芽の成長にまわり、新しい芽が伸びてきたものです。自然の森で、樹齢の古い木や倒木がこうして新しく若い木へと生まれ変わっていくのが“萌芽更新”です。永い年月をかけて自然界で繰り返されることで、森や山の世代交代が進みます。萌芽は、既に地面に根を張った切り株を土台にして水を吸い上げるので、種から育つより、また苗木を植えるよりも安定して成長し、森林が速く育ちます。木や森は、こうして自らの世代交代や再生の方法を身につけています。

自然とはすごいものですが、それは、人間の組織のようでもあります。ただ、知恵を持ち過ぎた人間は、いろいろなことを考え過ぎるので、躊躇したり、先送りし、変われないでいるのが悪いところかもしれません。

ところで、今年は“昭和100年”。1926年12月25日から始まった昭和元年(大正15年)から100年目です。最近は、昭和世代、平成世代、令和世代など年号で価値観や行動慣習をひとくくりにしがちですが、一度、みな“昭和”という同じ線の上に置いてみるとわかりやすく、また違って見えてくるものがあります。

今年の新入社員の多くが生まれた年が「昭和77年(平成14年)」といえば、自分との差や全社員のスタートラインを再認識できます。ちなみに、前回の大阪万博の開催は「昭和45年」。平成元年は「昭和64年」、令和元年は「昭和94年」です。

組織の新陳代謝や世代交代のため、西暦では見えない、“昭和100年”という点の上に立ち、昭和120年、150年を見据えた線の上で、人間なりの“萌芽更新”を考えるには今が絶好のタイミングです。

以 上

<真>
2025年5月

名は時代を映す鏡Vol.67

今春の新卒・新入社員の多くが生まれた年の2002年(平成14年)年の名前ランキングの上位は「翔太・翔・大輝」「美咲・葵・さくら」というデータがあります。みなさんのまわりにもいらっしゃいますか?さらに、最近は、フリガナなしでは名前が読めない時代となり、まさに、名前は“時代を映す鏡”です。

会社の名前も同じで、新年度の4月1日に社名変更した上場企業があります。「YUSHIN(ユーシン精機)」「TANAKEN(田中建設工業)」「AIRMAN(北越工業)」「DAIKO XTECH(大興電子通信)」など、傾向としては、引き続き、グローバルでの認知度向上を意識してアルファベットやブランド名に変更した会社が多く挙げられます。

また、事業領域が広がって、必ずしも社名と事業内容とが一致していないことから、祖業や本業を社名から外したのが、「ユキグニファクトリー(雪国まいたけ)」や「TOYOイノベックス(東洋機械金属)」です。先日、NTTも社名変更すると発表しました。実は、まだ正式社名は「日本電信電話」だったようで、5月決算発表時に新社名を公表、6月の定時株主総会で決議するとのことです。どういう社名になるのかと関心は高まります。

時代や環境の変化に対応して、各社の事業そのものが変容しているので当然と言えば当然の流れです。一方で、中小企業はどうでしょう?まだ漢字表記や創業オーナーの名字が社名といった会社が多く、社名変更への積極的な動きは感じません。

会社名で何をやっている会社かがわかるのは昔の話で、これからは、名前に縛られずに変わっていく、世界へとはばたいていくことを、できることなら社名でも示し、人材採用や社員の意識改革にもつなげたいという中小企業も少なくありません。ただ、やはり、いざ社名変更をするとなると『コストや手間を考えたら無理』『業界や顧客に浸透しているから』『創業一族に配慮すべき』などといった意見が大勢を占め、誰かが強く主導しないと実現できないというのが現実でしょう。中小企業が、よりダイナミックに事業も意識も変えていくなら“事業承継ブーム”ならぬ“社名変更ブーム”が起きてもいいはずですが、その実現には、さまざまな“壁”があります。

名は体を表し、名は時代を映す鏡。オーナー企業にとっての社名変更は、オーナーの会社ではなくなる第一歩であり、事業承継にいざ踏み出そうという時のための布石とも言えます。ゆえに、そう簡単にできることではないとしても、新しい社名に想いを馳せてみるのもいいのではないでしょうか。その延長線上には、将来の会社のあるべき姿や事業承継に向けた絵姿がぼんやりと浮かんできそうです。

以 上

<真>
2025年4月

“買収”ではなく“投資”Vol.66

2025年2月の日米首脳会談でトランプ米大統領は、日本製鉄によるUSスチールの買収計画について『買収ではなく投資』とコメントしました。さすが、実業家でもあるトランプ大統領らしく、光の当て方次第で“見えているもの”をわかりやすく変えると同時に、各当事者の“得られるもの”が大きく変わりうる状況へと導きました。

真意を読み取るためにも発言の原文をたどると、
『Japan’s Nippon Steel would be allowed to invest “heavily” in US Steel, but would still not be able to outright purchase it.』 とコメントしたようです。(実際の会見ではNippon SteelをNissanと3回も言い間違えたらしいですが…。)

つまり、日本製鉄は、USスチールに対して『outright purchase(完全な買収)』はできないが『invest “heavily”(多額の投資)』は許される、USスチールが米国企業であり続けることを前提に日本製鉄がたくさん出資をして協力関係を構築するのはいいということになります。

この似て非なる『買収』と『投資』の違いは、経営権(株式の過半)をとるかどうかの違いです。その結果として、

  1. ① 親会社は日本企業?米国企業?
  2. ② 経営は日本主導?米国主導?
  3. ③ 会社や社員は幸せになれる?
  4. ④ 会社や既存株主は資金を手中にできる?

といったことが変わるといえます。

既存株主から過半の株式を買い取って子会社化するという『買収』であれば、経営のすべてを掌握できます。もちろん、日本製鉄は、買収にあたり雇用維持や将来の設備投資、役員選任等での現地中心の経営を約束すると提案していました。しかし、将来、経営環境が変化した際にすべてを決めて変えられるのは、やはり“株主(親会社)”です。『投資』でマイノリティ(少数)の株主になるだけでは、いざという時に成すすべはありません。せいぜい株主間契約や覚書を取り交わして、別途、決め事をしておくかです。ゆえに、日本製鉄からすれば、経営権を握らないで多額な資金を投下することが自社にとってメリットや意味のある投資となるか?が判断基準になってくるでしょう。

さて、この『買収ではなく投資』、あるいは『投資ではなく買収』という選択を巡る思考は、企業規模の大小を問わず、中小企業やスタートアップ企業の経営者がM&Aや事業承継、資本戦略を考える際にも十分に参考となり活用できるものです。

“株主”“経営”“会社”という観点から、『売却か?資本提携か?』『今、オーナーとして株式売却益を実現したいか?会社で資金調達が必要か?』『経営は全て任せるか?株式売却後も社長として続投したいか?』『会社にとって一番必要な経営資源を確実に得ることができるか?』といった判断材料をベースにして、“譲れること“と”譲れないこと“を考えていくと、それぞれがとるべき、今後のM&A戦略や事業承継への道筋が見えてくるはずです。

以 上

<真>
2025年3月

忘れないでいることVol.65

一年を通して、年末年始の1月もしくは12月は、亡くなられる方が多い月という統計があります。人の命や生死にかかわる仕事といえば、医療従事者の方をはじめ、葬祭、介護等がすぐ思い浮かびますが、意外と、金融業である「事業承継ファンド」も例外ではありません。事業承継ファンドの仕事である『中小企業のオーナー経営者が保有する全株式を譲り受け、経営を委ねられ、会社を継承する』というプロセスは、会社の経営の行く末だけではなく、オーナー経営者のこれまでの人生やこれからの人生も含めた“人生そのもの”に関わるものです。

“事業承継”は、オーナー経営者が“死生観”をもってはじめて考えられることであると思っていますが、ゆえに、一生のうちでも終盤、つまり、高齢になってから動き出すことが多いので、当然、病や死にまつわる話も少なくありません。これまで出会ったオーナー経営者の方でも、余命宣告されたことで事業承継に動かれた方、会社をファンドに託した後に程なく天に召された方、株式譲渡契約の締結目前で泉下の客となられた方もいらっしゃいます。生死を前にすると、“オーナー経営者”という肩書を外した一人の人間として相対することとなり、当たり前ですが『同じ人間なんだな』と思いながら喜怒哀楽をともにすることとなります。

事業承継ファンドの仕事として、オーナー経営者との間で会社を“託す・託される”というやりとりをするなかで、病や寿命という“人としての一生”に向き合わざるをえなくなったときには人は何とも無力であり、“できること・できないこと”の“できないこと”ばかりで空しくなります。そして、振り返ると“できたこと・できなかったこと”の“できなかったこと”が多くて、もっと何かできたのではと悔やまれます。

でも、ずっと一緒に生きられるわけもなく、ただ見送ることしかできないのなら、残された人間や託された自分たちにできることは、出会えた奇跡に感謝し、忘れないでいること、覚えていることです。オーナー経営者が、社長として歩んできた道や人として生きてきた証、作ってきたもの、愛してくれたお客さんはしっかりと残っています。

そして、オーナー経営者が築き上げてきた実績や功績、その結晶ともいえる“会社”はもちろんですが、日々、人として、さりげなく交わした言葉、握手した手の温もり、最後に手渡してもらったコンビニ弁当・・・そうした光景をふと思い出し、たとえ永遠はないにしても、忘れずにいたいです。事業承継ファンドという仕事は、そうした他愛もない日常も大切に想いながら、経営に取り組むことで成り立っていると考えています。

最後の最後まで経営者として頑張って人生を全うされた故人への敬愛と感謝の想いを天に届けるため、今、唯一できることは、“忘れないでいること”です。

以 上

<真>
2025年2月

開かれる 2025Vol.64

1月11日の“鏡開き”で正月気分も一区切りですが、鏡餅を“割る”とは言わずに、末広がりを意味する“開く”と言うのは日本語ならではの表現です。そして、2025年の日本は、企業の大小を問わず、“開かれる”ことを求められる1年となりそうです。

2024年は、国境を越え、想像も超えた、大型M&Aが話題になりました。例えば、「日本製鉄によるUSスチールへの買収計画(2兆円規模)」や「カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール社からのセブン&アイ・ホールディングスへの買収提案(7兆円規模)」、「日本生命の米系生保レゾリューションライフの買収(1.2兆円)」等が挙げられます。日本製鉄やセブン&アイHDの案件は、越年して、2025年もその展開から目が離せません。

また、「KKRとベイン・キャピタル(いずれも米系ファンド)による富士ソフトの争奪戦」「ベネフィット・ワンへのエムスリーと第一生命による国内企業同士のTOB合戦」等、会社を買う、買われる、奪い合うことが市場で繰り広げられ、買い手も異業種や同業もしくはファンドが突然現れるなど、ターゲットとなった企業の経営陣が好きも嫌いも関係ない“同意なき買収”が当たり前になってきました。

現状に甘んじている、あるいは、ほどほどの成長で満足しているとみなされる上場企業には、株主や市場からさまざまな圧力がかけられ、選別が始まり、決断が迫られています。

こうした資本市場の大きなうねりは、中小企業にとっても、主要取引先がM&Aしたりされたりするなど、いつどういう形で自分事となるかわからず、もはや傍観者ではいられません。例えば、日産自動車とHONDAの経営統合にあたり、両社と取引のある企業は重複を除いた単純合計で23,440社に達し、そのうち、売上高10億円以下の中小企業が約15,000社とされています(東京商工リサーチ調べ)。

上場企業が株主から変革と株主価値向上を迫られるなか、未上場企業も『今のままでいい』と許される状況にないのは確かです。未上場企業であっても“開かれた会社”であることが当たり前”という意識で経営を進めていかなければ、未来はありません。

2025年、上場企業も中小オーナー企業も“資本のありかた”を根本的に見直すことが求められる一年となりそうです。

以 上

<真>
2025年1月